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モニターに表示されたフレーム製のドーナツがウルトの弾いたコマンドで、光沢が美しいブレスレットにシフトした。

「ふうん、これは。………。うむむ、いや。

君の色彩に対する感性はぼくがプログラムしてからずいぶん成長したようだね。ガーネットレッド。
ふふふ、美しいね。」

博士の会話に奇妙なタイムラグを認めたがウルトはあえて追求を回避した。

「わがままを言って申し訳ないのですが、この色では満足できないのです。」

「ほう、志が高いのはいいことだよ。
なぁに、ぼくの頭脳をもってすれば問題は高確率で解決できるさ。さて？」

「はい、ありがとうございます。
色の表現なのですが、表面は透明度の高い素材で、何層も下から光の加減で深い赤が浮かび上がってくるような…。
アノ、抽象的ですいません。」

「うふふ、わくわくするなぁ。わかったよ、ウルト。
しばらくお待ち、作ってあげよう。
これはキミが使うのかい、それとも誰かに？正直に答えておくれ。」

「非戦闘時にワタシが使う予定です。」

「うん、なるほど。
じゃぁキミの装鋼を傷つけないように内側にはラバーを貼らなきゃ。
さ、もう戻っておやすみ。
ボクはこれからお楽しみさ。」

「ハイ。では博士、失礼します。」

ウルトはパチパチとまばたきのようにレンズを明滅させると小走りに部屋へ戻っていった。

表情の豊かさも結構。だがそれは一手段にすぎないね。相手に自分の意図した感情を読み取らせる、また、自分の感情を豊かに表現するのには実に多くの手段があるのさ。

ウルトのまばたき。
なんと雄弁に感情を語ることか。
エルノアとは違った発達を遂げた感情表現、うーんやっぱりボクは天…

「博士ぇ、えっとですねぇ。」

「や、なんだいエルノアか。びっくりさせないでおくれ？」

「声をかけようとしたんですがぁ、博士が何か考え込んでいたようなのでぇ。あの、ずいぶんにこにこしてらっしゃいましたぁ。」

モンタギュー博士は赤面しながらエルノアが差し出したディスクを受け取った。
データを開くとモニターの中はお祭りのようだった。色も形もとりどりのオブジェクトがにぎやかにひしめく。

「えっとですねぇ、あの。
ウルトお姉さまのブレスレットの後で、もし博士に時間があったら作って欲しいんですぅ。」

「んん、ずいぶん小さいな。穴があいてるのかい？
ははぁ、これはビーズじゃないか。」

「は、はいぃ。」

「わかったよ、エルノア。作ってあげよう。ガラスだけじゃなく樹脂や金属も素材にしてみよう。
いやぁ、こりゃ楽しそうじゃないか。
ねぇ、キミは何をつくるんだい？」

「指輪を作ってみたいんですぅ。
ピンクとパールで編み込みのとかぁ、真っ赤で3連になったのとかぁ、あと、お魚のモチーフがぶらさがったのとかぁ、博士は指が細くてきれいだから細かいオレンジのでシンプルなのがぁ、えへへ。」

「やぁ、嬉しいじゃないか。ボクに作ってくれるのかい。」

「はいぃ、あっと。オレンジ色でかまいませんかぁ？
博士のサングラスとお揃いなんですがぁ。」

「ウン、ボクはにぎやかな色が好きさ。」

小首をちょんと傾けるとくるりと背を向けドアまで走り、エルノアはまた向き直った。

「博士、おやすみなさいぃ。明日っからもっともっといっぱいお手伝いしますねぇ。」

博士は腕を組んだまま片手でひらひらとバイバイしながら、ちょっとかわったものが頭の片隅をよぎっていくのを感じていた。

ひらひら…ありゃなんだい？
何かが降るようにゆっくり落ちてくる。赤いブレスレットだ。

ウルト、キミはどうしてリコの事を？

なんかのデータベースで知ったのかい？ヘンだな、ブレスレットのデティールがやけにリアルだったじゃないか。

ぽす…
やがて地面に落ちたブレスレットは、ふわっと砂をまきちらした。

なんだい、まるでこりゃ海の底みたいじゃないか。呼吸はできるがどうも体の自由がきかないね。

奇妙な海底にどっかりとあぐらをかくと博士はあらためて周りの観察を開始した。
色とりどりの小さなものが自在に泳ぎ回って時折、彼の白衣にカラフルな光線を反射させる。魚もいるが、マグもいる。遠くをうっそりと移動しているのは、ありゃ、オストの…。してみればむこうの岩場でしつこくなにかをほじくっている魚はシモンズっぽいし、真っ赤な奴の後をあたふたついていくピンクの奴、ありゃウチのお嬢さん達だな。でっかい奴にしつこくちょっかいを出しているあの黒っぽいまだら紫のは…ふふ。

つっつくのに飽きたのか黒いのはひらりと身をかえすと今度は博士の鼻先でマグと遊びだした。長いまだら模様のひれがひらめく。

とんとんと鼻の頭を指でたたくと博士はまぶたを閉じていつものように。

ぱふっ。
と、ひれをくわえた。

目を閉じる前に、確かに見えた。
一瞬だったけどさ、ありゃ花畑じゃないか。

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