トップ　おはなし　ブログ

とすん、とおろされたのはバスタブの中だった。

「ヨグ、ちょっと足をひらいて。うん、そうそう。
ここにおとさないとうまく泡がたたないからさ。」

ヨグの足のあいだにバスバブルの粉末をおとすとジャンはカランをひねった。

「大丈夫、熱くしないから。」

勢い良くお湯がバスタブをみたしはじめ、もうもうとした湯気からチョコのにおいがたちのぼった。

「ふわぁ。」

「うふふ、どうだい。珍しいだろ、チョコの香りがするバスバブルなんてさ。さ、あったまっててくれたまえ。」

ジャンが席をはずしてやっとヨグは一息ついた。
ふーーーーー
ながいながいためいきだった。緊張が一気にとけて、なさけないほど表情はだらしなかった。

いつのまにか戻っていたジャンが満足そうにかぶりをふった。

「そうかい、そうかい。そりゃよかった。
あ、君の服ランドリーにつっこんできたからね、バスから出たら清潔なのを着られるよ。

やぁ、それにしてもホント、気持ち良さそうな顔だねぇ。」

へらへらと、ろれつの回らない様子でヨグは答えた。

「うふふん、うらやましい？ジャンも入んなよ。」

「ふむ、それもいいな。」

フォニュームのハンターズスーツは意外と着脱が楽なようだ。あっというまにスーツを脱ぎ捨てると、バスタブの淵に腰掛けて天才は悩んだ。

「はて、どっちを向いて入ればいいものか、初めてだな、このケースは。」

「んー、そだね。ボブスレーじゃないんだからこっちむいて入ったら？」

▶次へ

　トップ　おはなし　ブログ