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入り口は、そりゃウチのよりかはちっとばかし立派だけどまぁ、入り口だった。ジャンの家。
エントランス、居間をぬけて私室。むぞうさに脱ぎ捨てられた白衣は、シティでも見かける博士たちのものと一緒だった。

ジャンの白衣、かぁ。
ヨグの頭のなかでなにかがカリッ、と音をたてた。

よそ見してジャンから遅れたヨグが耳で手招きされて私室についたドアをくぐると、なんとそこはケタはずれの空間だった。どうして一般の住居にこんな広大なフロアがくっついているのだろう。こりゃまるで公立の図書館じゃないか。

高い天井にとどく書架の列また列。
ただ、パブリックな性質の空間でないことはそこらにほうられた本や書類やがらくたでヨグにも察しがついた。

「そう、確か…。」

角を三度曲がったところでジャンは足を止めた。それは妙な書架でビーズ細工やデコパージュなんかの本がぎっしりと詰まっていた。天才はむろん、弁解なぞしない。好奇心にそんなものは必要ないってことだろう。

「うふふ、あったあった「かんたん！アロマ入門」。
そこだよ、ヨグ。ちょっと高いが届くかい？」

「うん、どれ？よっと。」

背伸びして右手をせいいっぱい伸ばし、お目あての「かんたん！アロマ入門」になんとか手が届いたときジャンが妙な唸り方をした。

「んん？」

振り返るとジャンの表情は真っ平らになっている。視線は、袖がひっぱられてむき出しになったヨグの手首にそそがれていた。

「なに？この本じゃないの。」

「手を下ろさないで！」

「？なんだよ、手がしびれるってば。」

「ふむ、なるほど。」

わけのわからない問答で有無をいわさずジャンはヨグの手首をとった。真っ平らな表情のままでぐいぐいと袖をまくりあげ、そこにあらわれたものをしげしげと見つめた。

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