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「博士ぇ〜、なんか眠いですぅ。」

「だから云ったじゃないか、エルノア。そのオイルはまだ安定しきってないって。ぼくは君の意志を尊重したんだよ。」

「でもぉ、メンテナンスが長引いたらヨグさんと遊べなくなっちゃいますぅ。ふぁぁ…」

「ジャン、今日あたしヒマ日だよ。エルノアが目を覚ますまでここにいよっか。」
 

気分転換に来たパイオニア２の一角にある植物園で弁当を食べ終えたヨグとジャンは「眠い」アンドロイドのエルノアを少し休ませることにした。
女の子が走りまわって、おじさんが散歩して、アベックが通り抜ける。まったく母星とかわらない眺めだ。空がドームであることを除くと。

「ふふふ、たまにはこういうのも気分がいいね。
ぼくもラグオルに行けたらなぁ。」

「そだね、あたしの話じゃちっと、ものたりないでしょ。」

「い〜や、それはそれでけっこう興味深いよ。
そう、このまえの「ペンパル」の話なんかね。」

ジャンが興味を示すので、ヨグはちょくちょくギルドから請け負った仕事のはなしを聞かせていた。むろん個人名などはふせてだが。

人工のそよかぜがここちよい。

ジャンは上着を脱いで、芝生の上にまるまって待機モードになったエルノアにかけてやると自分も芝生に寝っころがった。ちっとヘンなながめだ。
ふいにジャンがきりだした。

「ふふふ、ホントに気分がいいな。
ちょっとぼくはおしゃべりになりそうだ。」

「ん〜、どうぞ。」

ヨグもならって芝生に腹ばいになった。

「例のオスト博士って男だと思うかい？」

「え？ああ。うん、あれ？」

「ふふ、やっぱり。
オスト、彼女はね、ぼくの共同研究者で恋人だった。」

ヨグは覚悟をきめて腹に力をいれた。 どんなとんでもない話にも耐えられるように。ジャンが横目でちらりと見て笑った。

「そうだね、もう遅いからね。ぼくはしゃべるぞ。
えっと、そう。「オスト博士の恋人」。

ふふ、まぁ正確にいうとぼくのオリジナルなんだけどね、恋人の「彼」ってのは。DNAは一緒さ。
ぼくは彼の遺伝情報をもとに造られたからさ。
え？そうだね。
普通はオリジナルが誰であるかニューマン本人に明かされることはない、だろ？どこにだって例外はあるのさ。エクレアといっしょだよ。
彼はただ、自分の複製を創りたかったらしい。クローンは風あたりが強かったからニューマンの遺伝モデルになる方を選んだのさ。」

「んっと有名人、だよね。あのオスト博士と共同研究をするくらいだから。あたしの勉強不足？知らなかった。」

「だれもほとんど、知らない。彼のことは。
彼。カルロって呼ぼうか。

カルロは公式に人前にでることを極端に嫌った。ま、変人さ。一種の。
ふふ、でもね陰気な男ではなかった。冗談が好きで女の子が好きで。…自立型コンピューターに異常なまでの情熱をかたむけていた…そうだ。

ああ、ぼくは彼に学んだけどさ、生身の彼には一度しか会ったことがないよ。すべてはカルロ自身が録画した映像に学んだんだからね。
ねぇ、ヨグ。 こんなこと言ったらきみは怒るかな。

実はね、ふふ。

キリークの鎌、ソウルイーターはぼくがつくったんだ。記念すべき処女作だけどね。
つまりそれがカルロの課した「卒業試験」だったんだ。ぼくは腕によりをかけたよ。教えられた知識、自分の技巧。すべてを総動員した。なんたって卒業制作をカルロが直にみてくれるっていうんだもの。

持ち主の体力を吸い取り攻撃力を増す鎌。
結果？むろん。

「合格だ。さぁ、自由に生きていくがいい、ジャンカルロ・モンタギュー。」

初めて会った生身のカルロはなんとも・・・かなしそうに笑ったよ。ふふふ。」

「えっと、ねぇジャン。カルロって似てるの？ジャンにさ。」

ヨグは会話を少しでも普遍性のあるものにひきよせたかった、が。徒労におわった。

「いいや、ぼくが美形なのはオスト似だよ。」

「へ、遺伝情報がふたりぶん！それってまさか？」

「ね、わからないだろうカルロって男は。
オストの承諾なしに遺伝子をキメラにしちまったんだもの。自分とオストの子供が欲しかったのかなぁ。

そうだ、ヨグ。きみ、ぼくの兄弟にあったんだよね。ラグオルでさ。」

「え、なに。知らないよぅ。」

「やだなぁ、教えてくれたじゃないか。
ペンパルだった女の子をつれていったんだろ、坑道に、さ。」

「え、相手は結局コンピューターだった…ええっ？」

「たしかカルス、って名前だったっけなぁ。
「彼」もカルロをオリジナルとする存在さ。ふふ、さすがにみんな冗談と女の子が好きで…自律型コンピューターのことを考えずにはいられないようだね。業が深いな。」

「ジャン、カルスのオリジナルは若くして亡くなったって聞いたよ。じゃ、カルロはもう…」

「うん、死んだよ。ソウルイーターにかかってね。

おいおい、ぼくじゃないよ誤解しないでくれ。
さすがに実用むきではなかったんでね、ソウルイーターはずっと封印していたんだ。ぼくもずっと軍のラボにあるものだとばかり思ってたよ。
それが、どういうわけかキリークの手に渡って、どういうわけかカルロはターゲットになった。
ぼくが知ってるのはそれだけさ。因果なもんだよ。

ああ、いいんだ。君が持っていてくれてかまわないよ。武器は武器さ。」

ヨグはなんだかきりきりと胃が痛んできた。

「知らないこと、ほんとのこと、口にだせないこと。
ふふふ、たのしい、楽しいなぁ。
ヨグ、君だって考えたことあるだろ？
ラグオルの生物。本当は姿を変えたパイオニア１の乗員じゃーないかって。
ぼくが自分で設計したアンドロイドに恋愛感情を持ってるんじゃーないかって。

ま、最初のはそのうち真実がわかるさ。後のは…。

ふふ、愛情を感じているかも知れないね、実際。でもそれはエルノアの人格にじゃないね、彼女の機能のほうさ。きみは知っているよね、エルノアが「マザー」って呼ばれていることを。そうだな、マグと意思が通じるってのが何を意味するかわかるかい？

ま、好都合さ。エルノアの姿や口調からぼくがなぐさみものとして創ったんじゃないかって言われるのはね。奴らにゃ何もわかりっこないさ。ふふふ。」

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