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「博士ぇ〜」

エルノアはいつにもましてなさけない声をだした。
ラボにひょっこり戻ってきたジャンのありさまときたら。
ほっぺたに色のちがう何個かのキスマーク、目のまわりは腫れあがっている。なにがあったのか一目瞭然だ。

ジャンはやれやれといった顔つきでソファーに腰をおろす。
これが「苦笑」なのね、とエルノアは思った。

「ねえ、エルノア。ちょっといいかい。」

「はいぃ、博士。」

「ぼくの行動はそんなに理解しがたいものなのかな。
かわいい子にキスをされる、楽しいじゃないか。だからぼくもされてるじゃないか。
でもなんで「愛してる？」ってくるんだい。それとこれは別のことじゃないか。彼女らのキスって、好きだからしてるんじゃなくて「愛してる？」の前振りにすぎないのかな。」

いっきにまくしたてるとジャンはだらしなくソファーに寝そべった。

「博士、それバイアスでしょうかぁ。
ニューマンやヒューマンって分裂、あっとまちがい。生殖によって種を存続させるんですよね。それは大事なことだけど、ある年令をすぎると不可能になるんでしたっけ。

えっと、だからそのきっかけになるような出来事にはバイアス（偏向）がかかりやすいんだと思うんですぅ。

みなさんきっと博士を候補と認識してるのでしょうね。」

「・・・」

さすがにジャンも絶句した。

「でもでも、博士の気持ちも理解できます。
キスされるのが純粋に好きなんですよね。とぉ、たぶんヨグさんの耳も…」

「ふふふ、そうか。そうなのかもね。
やっぱり、こういうのは凡人には理解できないのかもしれないなぁ。」

その時ふいにジャンは何かを察した。まるで濡れた手が肩に触れたような…

「エルノア、ちょっと散歩にいこうか。」

「！」

普段の口調からは想像できない程てきぱきとエルノアは装備の用意にかかった。

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