トップ　おはなし　ブログ

食欲を荒々しく刺激するこのにおい！

死体を漁ってたらさ、バラモンステーキとじゃがいもとパンが手に入った。あたしはサンドイッチを作ることにした。放射能の汚染値もまあ、そこそこだろうからね。
大丈夫、ダイジョウブ。

朝 を待って突然変異アリの町、グレイディッチの廃屋でキッチンを拝借、ちゃちゃっとサンドイッチを組み上げて冷えたコーラといっしょに藤のバスケットにつっ こむとあたしは戦前物のワンピースに着替えた。ムギワラ帽のリボンには、わけのわかんない染みがついてたので真っ赤なバンダナをかわりにまいた。よし、悪ふざけは楽しい。割れた姿見の前でターン。スカートの裾がひざこぞうをくすぐる。すっかりピクニック仕様のティーンだ。背中のショットガンはご愛敬。

スキップで向かいの小屋をめざす。そして軽やかにノック。

「ウェーストン・・・」

言うが早いかまたしてもいつものように扉は先にあき、しかめっ面に白衣・ゴム手を腕組みしたあるじがぬっと立っている。もう、慣れた。

「ピクニックに行こう！日光にあたるとセロトニンの分泌が活発になるよ。ランチには細胞の修復に欠かせない蛋白質豊富なものを用意してる、さ？」

まくしたてる間にあたしはウェストンを５メートルはひきづった。奴は顔も合わせずもにゃもにゃ声でぐちをこぼしている。

「君はねぇ、いつもいつも。なんなんだい一体?」

「愚問だ、あなたのガールフレンドだよ。自称だけど。」

ぶつぶつ言いながらもあきらめたのか、せかせかと先を歩くドクターレスコの金髪うしろアタマを眺めながらあたしは思う。ドクターウェストン・レスコ。
結果を急いだ実験の過程でファイヤーアントを意図せず作り出してしまったお騒がせなドクター。住人の生活も生死すらもメガネの奥のその青い目には映らない。

ファイヤーアントに家族を殺されたぼうや、ブライアンはあたし、不憫だと思う、もちろん。力になりたい。でも、このレスコの方も気になるんだ。善悪はおいといてね。真っ平らな表情の青年科学者。ＦＥＶウイルスを入手できる立場にいた者。追っ手も未だかからずに無人のグレイデイッジに住んでいる。

廃墟のビルが太陽光を乱反射させる。道ばたの死骸はもはやチケイだ、地形。真っ昼間のが静かな地域もあるんだ。警戒はとかないけどね。

道中殺したラッドスコルピオンのしっぽをレスコが欲しがったので採ってあげた。興味しんしんでいじくりながらよそ見歩きをしていたレスコは案の定、縁石に足をひっかけてすっころんだ。

「ああ、ほら大丈夫？
ケガしてるけど歩けるなら問題ないよ。」

ズボンに穴があいても手にはしっかり尻尾をにぎりしめている。いつものように表情は不機嫌。まるでママのスカートにしがみついてるぼうやだ。あたしは19で年令的にま、子供だけど、もしかしてこいつもそうなのかな。

「あそこのバス停でランチにしようよ。
屋根があるから紫外線を避けられるよ、ドクター。」

「うん」

暑くなったのか白衣もゴム手もぬぎすててレスコはサンドイッチに手をのばした。ふたつ、みっつ。無言で平らげてゆく。両手でパンを握って食らい付いているハムスターみたいな姿を見てあたしはちょっとめまいがした。
普段めったにしない外出とすっころんだアクシデントでこいつの本性みたいなものが顔をだしたんだ。

「コーラはバスケットに入ってるから勝手にとって。」

終始無言、空はそっけなく、辺りは静寂。コーラの結露が指を濡らす。

シェルター・ｖａｕｌｔ101を出てからあたしは色んなものをいちどきに見すぎたのかもしんない。不健康な考えも心のなかで何個か転がすようになった。日常的に。
このピクニックもそのひとつの粋狂だ。
こーゆー男を飼っておくのもおもしろいかな、と思った。邪悪に突っ走って揺らがない人間はつまんない。真ん中あたりの域で揺らいでる奴はすごく、興味をそそられる。揺らぎの隙間から手をつっこんでやわらかい所に触れるスリルといったら。

ま、自分の分のサンドイッチを差し出すくらいの甲斐はあるよね。

「もうないよドクター、サンドイッチはおしまい。もっと食べたかったらリバースエンジニアリング、ね。」

「ん、その手があったか。ずいぶん滋味豊かだったなぁ。再現できるだろうか？」

「試行してみてよ、科学者、でしょ？答えはあなたの家の向かいの家のキッチンに残した。」

「冷蔵庫にマグネットでメモを貼ったのかね？」

「うん、古典的でしょ。」

帰り道のレスコは上機嫌で歌まで出てくる始末だった。小屋まで送り届け背を向けたとき。

「次はいつだろうか？」

ああ、これでいい。あたしは、これで。
「次に、バラモンステーキが手に入ったら、ね。」

今夜は月も出ない。バラモンステーキは二度とあたしの手に入ることはない。だってあたしは明日からパパと合流するつもりだから。でかい組織とドンパチしながら団体行動じゃ自由がきかないからね。それに、なんか。あたし、なんか。もう、死んじゃうような…気が

暗がりで腐臭をふりまいて何かが動く。レイダーだ。
ちょうどいい、あれは女だ、服をいただこうよ。あたしはこのワンピースをぬがなきゃ。この、おセンチもろとも。
子守歌よりもラブソングよりもあたしの眠りにふさわしいもの。

今宵も銃声はひびきわたる。

◆post it!

Fallout3はなにげにマッドサイエンティストの宝庫。

わたしはこのレス公もキライじゃなかった。他のマッドにくらべるとはるかにかわいげがあるからだ。ひきかえ、マッド・サイエンティストでも愛せない奴もいるとおくればせながら気づく。

「ダメっぷり」がキーワードかなぁ。

　トップ　おはなし　ブログ