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あるところにはあるのだ。研究員たちの溜り場になっているカフェにはちゃーんとケーキだってヨグの好物のエクレアだってある。パイオニア市民は厳格な重量制限を受けていてケーキ類は御法度ってのに、さ。 ジャンはローズティとケーキセットをオーダーすると、帽子をぬいで眼鏡をはずした。ヨグもならって帽子をぬぎながら、ジャンが意外とかっちょいいのに驚いていた。 「ふっふっふ。美形なんでびっくりした？ああ、ぼくは顔にマーキングは入れてないんだ。普段フォースとしての戦闘能力は使わないからね。」 「そだね、博士ってのは荒仕事はしないもん。」 「でもグランツぐらいは詠唱できるよ、ちゃんとね。」 「え、ええ？」 グランツは精神力で発動させる最上級の光系テクニック（魔法）だ。 むろんヨグはまだグランツ自体を使えない。 「天才だから、ね。 さて。」 ジャンがテーブルごしに顔を寄せてきた。 「ヨグ、君も眼鏡をはずして？」 天才はいつも唐突だ。 さからうのも面倒なのでヨグは従った。ジャンが少し意地悪いほほ笑みをうかべている。 「ブリッジのとこをよ〜くごらん。」 「え、眼鏡の鼻ンとこだよね。なぁに、わかんない・・・え？ なに、これ！」 ヨグの野暮ったいくろぶち眼鏡のブリッジには縦一文字に溝がついていた。鋭利な刃物でかすったような、これはまさか。 「「黒い猟犬」。 君の心配事は彼だったんだね。 云ったよね、ぼくは武器工でもあるって。彼のトレードマークは大鎌。 その傷を見てピンときたよ。ふふふ、もひとつ。 知ってた？君のほっぺた、マーキングの淵にそってぴったりに斬られているんだよ。さすがキリーク、正確無比だね。」 なんと・・・。 「このほっぺの黄色いマーキングに？ すご…。」 「んん？」 「あたし苦手だったんだよ、雷撃、ゾンデ系テクニック。だからね、ゾンデを上手になるようにマーキングを黄色にしたんだ。あたしの黒い肌には目立たないんだけど、さ。 「おいおい、なんの得があって君の首を刈るんだい。」 「そう。そーだよネ。 ヨグの浅黒い顔が興奮で上気してきた。 ジャンは指でテーブルをコツコツたたいていたが、おもむろにコップの水をヨグの頭にあけると眼鏡をかけながら静かに云った。 「さあ、ヨグ。もうお帰り。
「博士〜、なんであんなことするんですかぁ〜」 引き上げたヨグの後にアンドロイドのエルノアが姿をあらわした。 「ふふ、ヨグは別に怒ってなかったじゃないか。」 自重のためカフェのいすに座れないのでジャンのかたわらに立ったまま、エルノアは続けた。 「あの、博士、お話してよろしいでしょうか。」 「ああ、かまわないよ」 「わからないんですけどぉ、ヨグさんはどうして嬉しそうだったんでしょう。 「思いはいろんな伝え方があるのさ。受け取りかたもね。 そうだね、たとえばぼくはいつもヨグの耳をくわえるよね。でも、エルノア。君にそれはできない。君はアンドロイドで顔面に稼働部はないからね。 「いいえ、ヨグさんは怒ると思いますぅ。 ジャンは少し微笑んで、後に控えたエルノアに頭をもたせかけた。 「そうだ、それでいい。 かしこいエルノア。ヨグのことが好きかい？ ふふふ、君にも思いを伝える方法がきっとあるさ。君だけの、ね。」 「ええ。なんかそれを考えると嬉しいですぅ。 あ、そうだ、博士。早くラボに戻りましょう。そろそろ昨日の演算結果がでてるはずですよぅ。」 |
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